アイデアの採択基準と、不採択の場合に FoundX がよく行うフィードバック

Takaaki Umada
Takaaki Umada
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本ドキュメントは、東京大学 FoundXFounders Program に応募する際のヒントとしていただくために書かれました。内容は随時更新しています。

まずはすべての事業領域の応募でも共通して行う、よくあるフィードバックを紹介します。

よくある共通のフィードバック

以前、締切の 2 週間前までに応募いただいた方々にフィードバックを返していました。そのときに私たちがしばしばお送りするフィードバックをまとめました。
  • 市場の課題ではなく、顧客の課題を教えてください
    記述が市場レベルの抽象度の課題である場合、このようなフィードバックをすることがあります(詳細は → その課題、顧客の課題ですか? それとも市場の課題ですか?)。市場構造の課題ではなく、お金を実際に払ってくれる顧客の課題や、顧客が持つ深い悩みを書いてください。
  • スケールしないビジネスモデル(コンサルティングサービスや労働集約的な教育サービスなど)のように見えます
    コンサルティングから始めながら製品を作るケースもあると思いますが、FoundX ではスケールする製品を作る段階になってからのご応募をお願いしています。
  • 初期の検証をすることをお勧めします
    比較的簡単に検証ができそうなものは、採択の前に検証してみることを強くお勧めします。検証の結果アイデアが変わることもよくあります。「FoundXがおすすめする初期のアイデア検証方法」などの記事を参照してください。
  • 市場が小さすぎるように見えます
    私たちの推測が間違っている場合も当然ありますが、スタートアップを目指すにしては、市場が小さいところを攻めようとしているように見えるときがあります。「「売上100億円」という基準でスタートアップのアイデアの良し悪しを見分ける」などの記事を参照して、最大でどれぐらいの大きさになりうるのかを検算してみてください。今はまだない市場を攻めるときも、なぜ大きくなると思っているのかをご説明いただけると助かります。
  • 何を作るのかが良く分かりませんでした
    アイデア段階のみの場合によくあることとして、何を作ろうとしているのかが文章やスライドからよく理解できないこともありました。もしすでにプロトタイプがあるのであれば、そうした画像や動画などを埋め込んでいただくと受け手の理解が進みやすくなると思います。

各領域別の採択基準

以下ではそれぞれの事業領域別に、良くあるフィードバックとお勧めの準備、採択基準を解説します。
  • (1) B2C のサービス
  • (2) B2B の SMB 向けサービス
  • (3) B2B のエンタープライズ向けサービス
  • (4) B2B の Vertical 向けサービス
  • (5) ハードテック・ディープテック
  • (6) 規制領域のサービス
各領域の説明に入る前に、前提をお話ししておきます。

Founders Program は主にアイデアの深化を目的としており、実行を支えるためのゴール設定とリズム管理をメインに設計されています(アイデア探索の段階は他プログラムでカバーしています)。また、5ヶ月目に投資家チェックがあるため、そのチェックポイントに向けての実績作りを加速するための設計をしています。

そこで Founders Program の採択基準としては、プログラム加入時点で「アイデアの大幅なピボットをしなくても良いであろう」という程度のアイデアの練度と解像度があるかどうかが判断上で重要になってきます。言い換えれば、「事業を加速する準備が整っているように見えるかどうか」で判断しています。

ここからは各領域に分けて「あると良い情報」「採択されたチームの事例と特徴」「不採択になったチームの事例と特徴」を解説します。


(1) B2C のサービスの場合


📚 あると良い情報
B2C で、かつニッチな市場の場合、評価者たちはユーザーではない可能性が高まります。その場合、アイデア単体ではうまく評価できない場合があります。
そのため、以下のようなトラクションを記載いただくことで、「実際にユーザーから求められている」ことが分かり、アイデアを評価しやすくなる場合があります。
  • リリース後のトラクションの状況を書く(コンシェルジュ型 MVP を使ったトラクションでも可)
また B2C の Web サービスやアプリは UX や改善スピードが重要になるため、以下のような情報があると評価が高くなる傾向にあります。
  • 実際に作ったプロトタイプ(figma などではなくワーキングプロトタイプ)やプロトタイプの改善スピードを見せる
B2C アプリでは、ビジネスモデルが「広告」になりがちですが、広告モデルだけで大きく成長した企業はそう多くありません。広告でどこまで成長できるかを一度検算した上でご応募ください。その上で、以下のような情報があると評価が高くなる傾向にあります。
  • 広告のビジネスモデルが成り立つ説得的な理由と計算結果がある
  • 広告以外のビジネスモデルがある
もしトラクションや製品がなくとも、以下のような情報があれば採択されるときもあります。
  • ユーザーに対する異常なまでの洞察
ただしそのときも、チームにエンジニアがいないと作れないので採択には至りませんので、ご注意ください。

⭕ B2C で採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • アプリを作る前に自分でコミュニティを作り、そのコミュニティの参加人数をもってトラクションとして見せた
  • 1000 個以上のコンテンツを表示できるプロトタイプをリリースしていた
  • 継続的に利用してくれている熱狂的なユーザーがいた
❌ B2C で不採択になるチームの事例と特徴
不採択になりやすいチームには以下のような特徴があります。
  • まだ顧客インタビューをしているだけ、もしくはインタビューをしていても十分な数ではなく、洞察に辿り着いていない
  • アイデアがまだ不明瞭
  • ワーキングプロトタイプがない
  • 競合や類似商品のサーベイが不足している(似たようなものがすでにあり、違いが言えない)


(2) B2B の SMB 向けサービスの場合


📚 あると良い情報
SMB (Small & Mid-market Business) 向けも B2C に近い傾向を持ちます。B2C で挙げた情報に加えて、以下のような情報を記載いただくことで、アイデアを評価しやすくなる場合があります。
  • 少人数からでも構わないので「製品ができたら買う」などのトラクションを顧客から既に獲得している(コンシェルジュ型 MVP を使ったトラクションでも可。口頭ではなく書面が望ましい)
  • 実際に作ったプロトタイプ(figma などではなくワーキングプロトタイプ)やプロトタイプの改善スピードを見せる
⭕ B2B SMB で採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • 飲食店に50件インタビューして回ったことと、その結果のインサイト
  • 町工場に30件インタビューして協力企業を見つけていた
❌ B2B SMB で不採択になるチームの事例と特徴
  • まだ顧客インタビューをしているだけ、もしくはインタビューをしていても十分な数ではなく、洞察に辿り着いていない
  • 大きなビジョンを描いているものの、最初の市場エントリーの方法が曖昧
  • 類似製品との差別化要素が十分に伝わらない内容になっている
  • 解決策の技術に関する記述が、「AI」などの抽象的な言葉のみになっていて、何を作るのか良く分からない


(3) B2B のエンタープライズサービスの場合


📚 あると良い情報
大企業(エンタープライズ)向けのサービスの場合、検討から導入まで1年程度の時間がかかる傾向にあり、また求められる MVP のレベルも高いため、それなりに進んでいる段階でなければ時間制限のある当プログラムとの相性が良くありません。なので、プロトタイプがあるほうが望ましいです。またセールスやコンサルティングを含むサービスが重要になるため、そうした経験があることで説得力が高まります。
  • 実際に作ったプロトタイプ(figma などではなくワーキングプロトタイプ)やプロトタイプがあること
  • エンタープライズ領域での職歴と洞察
⭕ エンタープライズ向けで採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • 過去の GAFAM で機械学習を使った作業に従事していて、その時必要だった機械学習サービスを補完するサービスを作ろうとしていた
  • イベント等で顧客候補をとにかくつかみ、大手企業と何社も話していた
❌ エンタープライズ向けで不採択になるチームの事例と特徴
  • 顧客候補となるエンタープライズ企業とのつながりがほとんどない
  • プロトタイプを作れるチームを作れていない


(4)  Vertical のサービスの場合


📚 あると良い情報
各産業別の深い課題を評価者は深く知らないケースも多々あります。そこで以下のような情報を参考にアイデアの質を判断することがあります。
  • 現場での実務経験
  • 顧客インタビューの実施状況
  • 実証実験や PoC を進めていること
⭕ Vertical で採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • 自分自身のソフトウェア開発の体験から、どの開発工程を自動化するべきかについての洞察
  • 仮説を基に、特定企業と実証実験を進めているという実績
❌ Vertical で不採択になるチームの事例と特徴
  • 自分の実務経験に基づく洞察のみをベースに考えており、十分な顧客インタビューは実施できていない
  • あまりにもニッチ過ぎて、スタートアップとして急成長が難しい市場のように見える


(5) ハードテック・ディープテックの場合


📚 あると良い情報
ディープテックスタートアップは時間がかかることを十分に理解しているつもりです。なので、ディープテックスタートアップには優れた技術があれば、それ以外は多くを求めません。しかし顧客の課題については、十分に検討の上ご参加いただきたいため、以下のような情報があると評価しやすくなります。
  • 技術がどのように優れているかの情報
  • 顧客の領域や課題が明らかな状態 (LOI などはなくても構わない)
⭕ 採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • 現状の開発状況が分かりやすいビデオ
  • 一流誌での論文の採択
❌ 不採択になるチームの事例と特徴
  • まだ論文のレベル(こうした場合は GAP ファンドをお勧めしています)
  • 技術はあるが、顧客がまだ明確ではない(こうした場合は Fellows Program をお勧めしています)


(6) 規制領域の場合


📚 あると良い情報
規制領域も同様に時間がかかります。しかし、いくつかの方法でアイデアの良さを判断することがあります。
  • そもそもなぜ規制に挑まなければならないのか
  • どの規制を変えるべきかが具体的に分かっている
  • 規制担当者へのアプローチの状況
⭕ 規制領域で採択されるチームの事例
このジャンルで合格したチームは、以下のような情報を提供してくれました。
  • 自身が関わる標準化団体での活動
❌ 規制領域で不採択になるチームの事例と特徴
  • 具体的にどの規制が問題なのかを明確に言えない
  • 規制の緩和が消費者や顧客にとって不利な内容になっている



書類整備の注意点

多くの応募が書類審査で不採択となりますが、不採択になる応募の一般的な傾向と対策をまとめました。
  • 情報は可能な限り少なく、必要十分な量にして投稿すると通りやすくなります。情報が多いと逆に理解しづらくなることのほうが多いようです。特に文字数は長いと分かりづらくなります。長くなる場合は、スライドなどを別添してください。
  • 仮説とクレーム (主張) を明確にできていると理解しやすくなります。スタートアップのアイデアで重要な仮説は、課題と解決策と急成長できるかどうかです。それらをクレームという形でまとめるように心がけると審査に通りやすいです。
  • 有名なアドバイザーの有無は事業の説得力には繋がりません。アドバイザー程度の関与であれば、評価にはほぼ影響しないので、多くの有名なアドバイザーを得ることに時間を使うよりは、アイデアのブラッシュアップに時間をかけたほうが良いと思います。
  • 面接へと進むことを前提にして、書類の情報を減らさないようお願いします。書類上の情報で十分に理解できない場合、書類審査の時点で落ちてしまいます。不採択の通知をした際に「面接で話そうと思っていました」というコメントをいただくことも多いのですが、重要な情報は書類にも記載しておいていただければ審査しやすくなります。

なお、アイデアを明確かつ簡潔に書けるかどうかは、仮説の解像度を測る一つの要素として使わせていただいております。

「十分に話す時間を取ってくれれば分かるのに」と思われるかもしれませんが、ぜひ明確かつ簡潔に書く練習として、応募フォームをご活用いただけますと幸いです。ぜひ「Y Combinator の応募方法と成功の秘訣 - FoundX Review」もご一読ください。